「いいえっ、そんな訳にはいきません! 舞踏会で踊れない令嬢なんて恥曝しです! 面汚しです!!」
 涙目になりながら、メリアはエドマンドに向かって言った。
 
 そんなメリアの反応が予想外だったようで、驚いたように彼はメリアのそんな姿をまじまじと見つめた。

「確かに、わたしはドジで運動オンチです。才能なんてこれっぽっちだって無いのは分かっています! けれど、それでもここでお世話になっているからには踊れないと駄目なんです! 少なくとも、それが今のわたしの使命なんです!!」
 メリアは、必死になりすぎてえらく話が大袈裟な方向へ流れていってしまっていることに全く気付いていなかった。そして、それを一体誰に向けて訴えかけているのかもすっかり忘れていたに違い無い。

「君がそうまで言うのなら、止めはしないが・・・。だが、せめて別の場所でやってくれないか・・・」
 エドマンドの忠告に、メリアははっと我に返り、涙を拭いた。
「す、すすす、すみません!!」

 慌てて立ち去ろうとするメリアの背中を、エドマンドが珍しく呼び止めた。

「おい」

「は、はい・・・?」

 また何か叱られるんじゃないかとびくつきながら、メリアはゆっくりと振り返った。
 目尻にはまだ僅かにの雫が光っている。

「ティーを淹れてくれないか。君のお蔭で俺はまた寝不足だ」 
 一瞬驚き、目を瞬かせたメリアだったが、
「はいっ! すぐに!!」
 にっこりと微笑み、元気良く廊下を駆け出した。

 ここへ来て、彼が初めてメリアにした頼み事だった。
 
 メリアはとても嬉しかった。彼が、きっと自分の事を疎ましく思っているだろうと、ずっと心配していたせいだ。
(今度こそ、きっと美味しいティーをご馳走しなくちゃ!!)
 アダム・クラーク男爵の屋敷で、彼にティーをひっ掛けてしまった件以来、メリアはずっと彼に申し訳無く思っていた。が、なかなかその名誉を回復する機会も訪れないままだった訳だ。