すぐ背後で、部屋のドアが開く音が聞こえ、二人は同時に振り返った。

「・・・・・・」

 ドアから現れたのは、エドマンド・ランバート伯爵。
 今朝も早くから、どこへやら完璧に身なりを整え、一人で出掛けていたのだ。

「やあ、エド。お帰り! 今日はえらく早かったね」

 にっこりと微笑み、パトリックはエドマンドに右手を挙げた。

「・・・パトリック。人の部屋で何をやっている」
 不機嫌な顔で、エドマンドがドアから進み入ってきた。タイを緩め、そのままデスク前の椅子に深く腰掛けた彼に、パトリックはにこにこと答えた。
「メリアとダンスレッスンを」

 メリアは、さり気無く彼から視線を遠ざける。
 アダム・クラーク男爵の屋敷での一件以来、エドマンドに何となく気まずくなってしまい、あまり彼と顔を合わさないようにしてきたのだ。
 うまい具合に彼はこのところよく出掛けるし、そう苦労することなく今まで顔を合わせなくて済んでいたのだが、今日はそうはいかなかった。

「わざわざ俺の私室でか?」
 が、久しぶりに目にしたエドマンドは、ひどく疲れた様子だ。
 うっすらと目の下にクマが浮き出ている。

「いけなかったかい?」
 悪びれの無いパトリックに、エドマンドが小さく溜息をついたのがメリアにも分かった。
「だって、君は早朝から出掛けて、戻るのは日が暮れてからだろう? まさか、こんな時間に戻るなんて考えもしないから」

 そう言ったパトリックの言葉中には、一人で何かを嗅ぎ回っているエドマンドに対しての抗議の意味が込められているのかもしれない。

「・・・・・・で、少しは上達したのか」
 決してエドマンドと目を合わそうとうしないメリアに、なぜだかいつもよりも不機嫌なエドマンド。そんな二人に、パトリックは小首を傾げた。