「へ・・・?」
 メリアがそう言うと、エドマンドはぶすっとした目をメリアに向ける。

「この屋敷の前で君を見かけたときから、こんなことだろうと思っていた」
 深く溜息をつき、エドマンドは呆れたように二人を見回した。

「俺の屋敷にいる以上、軽率な行動は控えろ」
 驚き、メリアはエドマンドの不機嫌な顔を見返した。
「す、すみません・・・。迷惑をおかけするつもりは無かったんですが・・・」
「謝るくらいなら、最初からよく考えて行動することだ」

 ふいと視線を逸らし、エドマンドは早足で再び歩み始めた。
「あの・・・!」
 慌てて後を追うメリアとテレサ。
 テレサは咄嗟に彼に問い掛けていた。
「ランバート伯爵・・・! 旦那様の弁護を引き受けたというのは、誠でございますか!?」
 ぎょっとしてメリアはテレサを振り返った。
 彼女はときとして、突拍子も無い思い切った行動に出てメリアをいつも驚かせる。


「嘘に決まっている」


 エドマンドのぶっきら棒なその一言に、
「へ?」
「は?」
 と、二人は歩く足を止めて素っ頓狂な大声をあげていた。

「根っからの出まかせだ。あの場はああでも言わなければ、俺も君達も三人とも拘留されていただろうからな」
 とんでもない真実に、メリアとテレサは互いに目を見開いて顔を見合わせた。

「で、では、もし嘘だとあの方に知られたらどうなさるおつもりですか・・・?!」
 テレサが真っ青になってエドマンドに訊ねる。

「あくまでその場凌ぎであって、先のことなど何も考えてはいない」

 いつもは計画的なエドマンドがこんな非計画的な行動をとるなんて、メリアにはとても信じられないことだった。
 自分が明らかに不利になることを承知で、彼がメリアの為だけにアダム・クラーク男爵の屋敷に潜り込んだということになる。
 
 それが、このときのメリアにはとても不思議で仕方の無いことだったのだ。