「あんまり一人で無理しないでくれよ?」

 メリアの唾の大きい帽子を見下ろしながら、パトリックはエドマンドに忠告を入れた。

「ああ。分かっている」
 仕上げにハットを深く被ると、エドマンドは部屋を出て行った。
 


 パトリックは、彼の姿が完全に屋敷から見えなくなるのを確認すると、いよいよ動き始める。
 一目散に庭にいるメリアの元へ!

「メリア!」

 満面の笑みを浮かべ、庭で屈み込む彼女の背後から声を掛ける。
 パトリックの声で、メリアがゆっくりと顔を上げた。
 帽子の唾の下から、大きく猫のような目がのぞいた。

「おはようございます、パトリック様」
 軽やかな足取りで、パトリックはメリアのすぐ脇で立ち止まった。

(なんだか、毎日来られているみたいだけれど、お仕事の方は大丈夫なのかしら・・・??)
 なんてことをふいに心配しながら、メリアはにっこりと彼に微笑んた。
 本来は彼の専属侍女。彼の仕事の具合が実のところ気になって仕方が無いところだ。

「今日は庭で一体何をしているんだい?」
 目をきらきらと輝かせ、パトリックは興味深々と言った様子でメリアの作業を覗き込んでくる。 

「薔薇の苗を分けていただいているんです」
 メリアはそっと脇に並べた薔薇の苗を嬉しげに見つめた。
「苗を?」
「ええ。これはピエール・ド・ロンサールの苗です。ダニエルがずっと欲しがっていましたので・・・」