「アダムのときは防ぐことができなかったが、今度こそ、絶対にデイ・ルイス侯爵の思惑通りにはさせない。彼女を守らなければ・・・・・・」

 ぐっと拳を握り、パトリックは机の端をダンと叩いた。

「なるほど。お前の言いたいことはよく分かった。だが、彼女をうちで預かるというのは一体どういう考えだ?」
 エドマンドの探るような顔つきを、パトリックはよくぞ訊いてくれたとばかりにニンマリと悪戯っぽい笑みを浮かべ見た。

「メリアを本物の令嬢に仕立て上げるのさ。そうすれば、彼だって安易には彼女に手が出せない筈」
 
 エドマンドはそれを聞いた途端、呆れたように頭を抱え込んだ。

「パトリック・・・・・・。そんなことが実際にできると思っているのか? 相手はあのデイ・ルイスだ。そんな嘘が通じる相手じゃないのは分かっている筈だろう・・・」
 このようなパトリックの突飛な考えは、今に始まったことでは無い。それは、十年来の付き合いであるエドマンドが一番良く知っていることだ。

「勿論分かっているさ。だからこそ君の屋敷で預かって貰いたいんだ。君は僕とは違って親から地位を受け継いだ訳じゃないし、その分親類はあちこちに散らばっているだろう? 遠い親類の娘が君の屋敷へたまたま遊びに来たってことにしておけば、まるで違和感は無い」
 エドマンドは、できることならこんなパトリックの提案は聞かなかったことにしたいと思ったことだろう。
 彼の言いうように、親類があちこちに散らばっていることは確かだ。
 けれど、パトリックの話はそう簡単に許可できる内容では無い。彼女を仮に受け入れたにせよ、周囲に秘密がバレてしまったときに傷つくのは、彼女自身に他ならないからだ。