どういう訳かただの雇われ侍女の筈のメリアは、パトリックに偽令嬢に仕立て上げられ、優雅に中庭でティーを飲んでいる。

(な、なんで・・・・・・??)

 パトリックが用意した綺麗なオレンジと白のエンパイアドレスを身につけ、頭にはレースのついたオレンジ色のリボンを結び・・・・・・・。

(なんでこうなってしまったの・・・!?)

 メリアは逃げ出したい気持ちでいっぱいになりながら、視線だけをゆっくりと周囲に泳がせた。
 メリアのすぐ前には、向かい合うように腰掛けたエドマンド・ランバート伯爵。
 彼の視線は、手元の新聞に注がれている。その眼差しは真剣そのものだ。
 パトリックの優しげな印象とはまるで正反対のエドマンド。
 隙の無い引き締まった雰囲気に、メリアはひどく居心地が悪くて仕方が無い。
 
 
 こうなってしまったのは、つい昨日のことだった。




「エド!! しばらく君にメリアを預かってもらいたい!!」
 パトリックがエドマンドの屋敷におしかけた時、彼は自室で重要書類に調度目を通していたところだった。

「・・・一体お前は何を言っている?」
 眉を顰め、万年筆をコトと机に置いたエドマンドは、パトリックを訝しげに見た。
 輝くような笑みを浮かべ、パトリックは言った。

「先に言っておくが、君に拒否権は一切無いからな? そもそも、彼女を路頭に迷わせるようなことをしたのは、君が原因なんだ」
 強気なパトリックの態度に、エドマンドがコホと僅かに咳き込んだ。