とんでも無いことを言い出したパトリックに、メリアが思わず聞き返す。

「ええっ!? でも、わたしはどうやったって、ただの侍女です。デイ・ルイス侯爵程の方に隠し通せる筈なんてないですっ!!」

 パトリックはパッと突然メリアの手を離すと、じっとテーブルの上の花瓶に視線を移した。昨日、メリアがダニエルに分けてもらった薔薇園のピンクの小さな薔薇だ。

「君を・・・。本物の令嬢に仕立て上げる・・・」

 驚き、メリアは数歩後退りする。

「こうなってしまったのは、全て僕の責任だ。僕が、なんとかして君を本物の令嬢に仕立て上げてみせる!!」
 ガタンと立ち上がったパトリックは、青くなって後退りしているメリアに気合十分の眼差しで振り返った。

「・・・む、無理です。正直にデイ・ルイス侯爵に打ち明けましょう? そうすれば、きっと諦めて下さいますよ」
 苦笑いを浮かべ、メリアはパトリックにそう助言する。

「そんなことをすれば、彼は何がなんでも君を手に入れようとするだろう。君がただの雇われ侍女だと分かれば、君を無理矢理にでも自分の屋敷へと引き入れようとする筈だ」
 
 さあっとメリアの顔からますます血の気が引いてゆく。
 後ろ盾の無いただの労働者階級の娘など、彼にすれば手に入れるのはきっと容易いことだ。