「あの・・・、お話中すみません。わたしはこれで・・・」

 そそくさと部屋を退室しようとするメリアを、予想外にもエドマンドが呼び止めた。

「君もここにいろ」

「は・・・?」

 気難しい顔をしたエドマンドは、メリアを厳しい顔つきで見つめていた。

「そもそも、君も無関係では無い。アダム・クラーク男爵に君が手紙を届けたのだからな」

 ぎょっとしてパトリックの顔を見たメリアだったが、そのパトリックでさえも、エドマンドの意見に賛成の意を表し頷いているのを見て、観念せざえるを得なかった。
 パトリックに促され、二人の横の椅子にメリアも腰かける。

「メリア、よく聞いてくれ。今から話すことは他言無用だ。もし誰かに知れれば、僕とエドの命は無い・・・」
 いつになく真剣なパトリックの言葉に、メリアはゴクンと唾を飲み込んだ。

「君はアドルフ・デイ・ルイス侯爵を知っているね?」
「ええ・・・。この前夜会でお会いした方ですよね」
 
 パトリックは深く頷いた。
 エドマンドは、難しい表情のまま腕組みしてパトリックの話に耳を傾けている。

「では、このところの彼の噂も知っているかな?」
「わたしが知っているのは・・・、デイ・ルイス侯爵は”時の人”だと世間で騒がれていること位です。普通では考えられない位の勢いで力をつけてきた方だと・・・」

 これは、世間一般で伝えられている情報であり、メリアが唯一デイ・ルイス侯爵について知る内容だった。因みに、この情報を教えてくれたのは、誰でも無いテレサである。