フワと舞う埃を吸い込まないように、メリアは服の袖で鼻と口を塞いだ。

思い返せば、この扉を開けたのは、あの夜以来のことだ。
きっとこれから先も、誰にも話すことのないだろう、まさに不思議な夜の不思議な出会い…。
顔も名前も知らないあの人とは、あれきり一度も会うことさえ無い。

メリアはふとそんなことを思い出しながら、あれはもしかすると、夢か幻だったかもしれないと、少しうたぐりかけていた…。




けど、夢でも幻でもいい。貴方にもう一度会えたら…)
キュッと締め付けられるような思いを胸に、メリアは階段下の地下室に足を踏み入れた。

「あっ…」

メリアの持つランプの
光に照らされ、地下室で何者かが確かに動いた。

「だ、誰??」
人の気配が感じられる。
メリアはもう一度ランプをゆっくりと地下室を一周するように翳す。

「君とはどうも縁があるようだ」
すぐ耳の傍で、囁くような男性の声が響き、メリアはビクンと肩を跳ね上がらせた。