「どうしてテレサが溜息なんかつくの?」
 メリアがそう聞き返すと、テレサは呆れたように首を振る。
「あのね、メリア。昨晩の事件じゃ事情がちょっと違うのよ。どうやら、逃げる途中でブランドナー男爵が護衛にと雇った人とやり合いになっているところを、警官に一撃やられたらしいのよ・・・。で、傷を負った彼は、この辺りに逃げ込んだって」
  
 メリアは、「ひっ」と思わず喉の奥から変な声を漏らしそうになって、なんとかそれを飲み込んだ。
(ど・・・、どうしよう・・・??)

「な~~んか様子が変ね、メリア。何かわたしに隠してない?」
 疑がわしい目つきでじっと見据えられて、メリアは必死でふるふると首を横に振った。
「ないない、何も隠してなんかない」
「本当かしら? な~~んか妙にそわそわして見えるけれど」
 慌てて侍女用の被りを癖っ毛の髪の上に載せ、メリアはそそくさと顎下に紐を通す。

「でもさ、ロマンチックだと思わない? どこの誰だか知らないけれど、闇の騎士様は怪盗に入った先で必ずメッセージを残してゆくでしょう?」
 動揺の為、なかなか蝶々結びができずにもたつくメリアの隣で、うっとりとした目をしながら両の手を合わせ、天井を見つめるテレサ。