ダッと駆け出して驚いた。

体が軽い。

ものすごく早く走れる。

そうだ、私はネコなんだ。

爪で引っ掻く事も、ヒゲで情報を集める事もできるはず。

もちろん体の敏捷性もネコ並みになっている。トンボ返りでも綱渡りでもなんでもござれだ。

やった、逃げ切れる。助かった。

してやった気分で振り返って、また驚いた。

ぜんぜん逃げ切れてない。

声をかけてきた人はすぐ後ろにぴったりとついてきている。

どうやら男の人みたい。

低い吐息が聞こえる。

なんで追いかけてくるの!?

誰か!

助けて!

足の下で落ち葉や小枝がはじける。靴は履いてなかったから、足の裏の肉球に刺さってイタい。

頑張って耐えて走ったけど、木の根っこに躓いて転んでしまった。

ゴメン、イサナ、フウカ、もうゲームオーバーみたい。

男は私の前に立ち、私の喉元に冷たく光る剣を突きつけた。

ヤバい。本当に殺される。

木漏れ日が刃で反射して、キラキラときらめく。

穏やかな光に包まれた森の中には似つかわしくない緊張感の中、男は重々しく口を開いた。

「白黒ピエロを知ってるか?」