LOVE STORIES

 それから三十分ほど経った時、おばさんが、「あっ! ほら来たよ! あの子じゃない?」と大きな声を出して修一に呼びかけた。

 おばさんが指差す方を見ると、そこには真っ赤なりんご飴が見えた。当然、りんご飴だけが見えたというのではなく、おじさんに連れられた綾香がいたのだが、なぜかりんご飴がはっきりと目に入ってきた。

 一瞬、嬉しさや安心感がこみ上げてきたが、すぐに申し訳なさや気まずさを感じた。綾香が近づいてくることが分かったが、顔を上げることが出来なかった。

 そして、修一は下を向いたまま座っていると、綾香の草履が見えた。何も言わずに修一の前に立っている。

 ゆっくり顔を上げて目が合うと、綾香は「早くしないと花火始まっちゃうよ」と言った。

 綾香は泣いていなかった。それどころか何事もなかったかのように振る舞っている。その様子を見ていると、余計に心苦しくなった。

 小さいころから知っている修一だからこそ分かる綾香の強がりを感じたのだ。お母さんとの約束を守ろうと必死でこらえていたのだろう。

「この子な、ずっといろんな人に坊ちゃんのこと訊いてたみたいだぞ。やっぱり、このぐらいの子だったら女の子の方がしっかりしてるもんだな」

 綾香を連れてきたおじさんが言う。

「ほら、早く花火見に行こうよ」

 そう言って綾香は手を差し出した。修一はその手をしっかり握った。