LOVE STORIES

「お母さんに知らない人にはついて行っちゃ駄目だって言われた」

 一瞬の間の後、ラムネのおじさんは吹き出した。お腹を抱えて笑っている。

「ほら、やっぱりお前には祭実行委員なんて無理だって言ったじゃねえか。その顔で迷子の世話はねえよな」

「そんなこと言うなよ。自分でも分かってるっての」

 修一は、顔を見て言ったわけじゃないんだけどな、と心の中で呟いた。

「でもな、坊ちゃん。こいつはこんな顔だけど怪しいやつじゃないぞ。こいつなら、きっと彼女見つけてくれるからな。安心してついて行っていいぞ」

「そんなこと言わなくたっていいって。ほら、おじさんは怪しくないから。ここに『祭実行委員』って書いてるだろ」

 そう言って自分の左腕にある腕章を指差す。

 修一はやはり知らない人について行くのは抵抗があったが、ラムネのおじさんも一緒に来てくれるということだったので、ついて行くことにした。


 連れてこられたのは、神社の広場の一角にあるテントの中だった。そこにはおじさんと同じ腕章をした人がいっぱいいた。

 広場の中央には櫓が組まれ、盆踊りの準備が始まっている。

「迷子になっちゃったの? 大変だったねえ」

 おばさんが修一の涙や鼻水を拭きながら、話しかけてきた。

「綾香、まだ見つからないの?」

 修一はとにかく不安だった。一刻も早く見つけてあげて欲しいと思っていた。

「まだなの。でもえらいねえ。こんなに泣くほど怖かったのに、お友達の心配してるんだもんねえ」

 だからこそ心配なのだ、と修一は思った。ここに来るまで嫌というほど、不安と恐怖を味わった。そんな思いを綾香にもさせてしまっている。しかも、自分の不注意から起きた事態なので、正直言うと、こんな所に座ってじっと待っていることが一番耐え難かった。

 だからと言って何が出来るというわけでないことは分かっていた。ただ、少しでも早く見つかることを願うだけだった。