「本当? ありがとう、おばさん」

 綾香も自分の姿を確認するために、修一の横に並んで鏡に映る自分の姿を見た。

「どう?」

 綾香は嬉しそうに何度も角度を変えて鏡に自分の姿を映している。

「さあ?」

 修一ははぐらかすことしか出来なかった。直接綾香の方を見るのが恥ずかしかったので、鏡の中で踊る綾香をチラチラ見ていた。

「何よ、それ」

 綾香はすねたみたいだ。頬を膨らませている。

「修一ちゃんは照れてるのよね?」

 綾香のお母さんが微笑みながら綾香の肩に手を乗せて鏡を覗き込んだ。

「そんなことないよ!」

 修一は慌てて声が大きくなってしまった。ふと我にかえり、恥ずかしさから顔を伏せた。

「大体、もう三年生なんだから、修一ちゃんはやめてよね」

「あら。そうだったわね。ごめんね、修一君」

 綾香のお母さんは悪戯っぽく笑った。

 修一は「修一君」と言われるとなぜか少し寂しい気持ちになった。でも修一ちゃんは恥ずかしい。

「生意気言わないの。ほら、二人ともよく似合ってるよ」

 今度はお母さんが後ろから修一の肩を持って並んだ。四人を映し出した鏡は一つの完成された絵のようで、温かい雰囲気で満ちていた。

 修一はいつまでもこの絵を見ていたいと思った。