「すっきりしただろ?」

 男が訊いてきた。

「少しね。でもあんたが楽しみたかっただけでしょ」

「当たり前じゃん。前に人生はいかに自己満足をするかだって言っただろ」

「あんた、やっぱり教師やめときなよ。多分、向いてない」

「そんなことないだろ。お前のことも解決したじゃん」

「どこが?」

「初めて見た時より、顔が明るくなった。少しはふっ切れたんじゃないの?」

 確かに、心を覆っていた重たいものは無くなった気がする。


 これでいいのだろうかという疑問はある。

 誰かを信じて、裏切られて、拗ねて、仕返しして、これから先もこの繰り返しだろうか。

 でも、それが今の自分なりの前への進み方なら、それはそれで悪くはないとも思う。


 そう言えば、まだこの男の名前を訊いていなかった。

 まあ、いいか。別に名前なんか知らなくても。そのうち分かるだろう。


 麻美はジンジンと痛む右の掌を見ながら、前へと一歩足を踏み出した。