「おう。最近良く会うな」

 将太はいつもの軽い口調で話かけてきた。

「またあ?」

 彼女の方は不満を隠そうともしていない。


 麻美は何も言わず将太の前まで来た。

 全身が緊張で震えている。なかなか決心がつかない。

「何?」

 将太は少し戸惑っている。

「何か用があるんだったら早くしてよ。あたしたちこれから遊びに行くんだから」


 麻美もこの状況がまずいことは分かっていた。

 しかし、頭が何度命令しても体がそれに応えてくれない。

「もう行こうよ」

 彼女が将太の腕を引っ張った。


 その時、後方から大きな声で、「せーの」と言う声が聞こえてきた。


 麻美は反射的に右の掌を将太の頬にぶつけた。

 バチンという音が響いた。

 驚いた将太は状況が呑み込めないようで、自分の左頬を押さえて立ちつくしており、彼女の方は呆気にとられている。


 麻美は足早に男のいる方へ戻った。

 全身が心臓になったみたいに、体中が脈打っている。

 そして、男はと言うとその様子を見て大笑いしていた。