教室に戻ると、いつものように誰にも話しかけられない。

 あのことがあってからずっとそうだった。

 自分で決めたことだ。他人と関わらない。どうせ傷つけられるのなら、関わらない方がいい。


 授業が始まった。

 授業自体は嫌いじゃない。ただ、途中にくだらない話を入れる先生は嫌いだ。

 そんなことで生徒の機嫌を窺おうとするのはあまりにも幼稚っぽい。


 先生という職業に就いた人は何を期待しているのだろうかと不思議に思う。

 まさか生徒に好かれたくてなんて思っているはずはないだろう。

 自分が生徒だった時のことを思えばそんなことはありえないと気付くはずだ。

 もしくは自分だけはそうではないと思っている程の楽天家なのか。

 いずれにしろ、何百人の生徒から嫌われて、傷つけられる職業など麻美からすれば考えられない。

 例えどんなにお金を積まれてもお断りだ。


 黒板の前で必死に喋っている先生に憐みの目を向けつつ、窓の外に広がる晴天の空を見た。

 力強く輝く太陽は暑さを感じられない人だったとしても夏だと分かるだろう。

 そして、この空を見ると思い出す。

 去年の今頃まではこんな風ではなかった。

 あの時は人生は嫌なことがあれば必ず良いことがあるのだと思っていた。

 地獄だった中学時代、そしてその帳尻を合わすかのような高校の一年間。この先もずっと楽しいことが続くのだと確信していた。