麻美は昼休みになると、いつも一人で屋上にいる。

 授業の合間の短い休み時間なら教室にいるのだが、昼休みとなると一時間近くあるので一人になりたかった。


 そこで何をするのかと言うと、当然昼ごはんを食べる。

 いくら人生に絶望しているからと言って、空腹を我慢するほど物好きじゃない。

 それは今、生きているのだから当たり前の話だ。


 そして、この時間に欠かせないのは音楽である。

 イヤホンから流れてくる音が現実世界から隔離してくれるような感覚になるのだ。


 麻美は洋楽しか聴かない。その理由は何を言っているのか分からないからだ。

 邦楽はやたらと歌詞が耳に入ってくる。

 恋愛の歌など最悪だ。他人の色恋沙汰など知ったことではない。

 ロックなら悪くはないが、百万人の人が知ってるよと言うようなことを、あたかも自分だけが気付いていると恥ずかしげもなく歌っているのが耳障りだ。

 その点、洋楽はいい。英語で言われても何も分からないし、純粋に音楽を楽しめる。ジャンルは何だっていい。

 その音楽の世界に閉じ込めてくれれば。


 今日も晩夏の日差しを浴びながら、音楽を聴いている。あと、半年我慢すれば高校を卒業出来る。

 この日常から解放されるのだ。

 だけど、卒業してどうするのかは分からない。どうしたいのかも分からない。

 それでも生きていく。生きているのだから。