一か月前の定期検診で乳がんが見つかった。

 症状としては決して重いものではないが、軽いものでもない。

 手術をした後、再発防止のために薬物治療を行わなくてはならない。リハビリも必要だ。


 だけどそれに自暴自棄になったから浮気をしたわけではない。

 この病気の重みを敦志に背負わせたくなかったのだ。


 まだ二十二歳の敦志には重すぎる。まだまだ若いのだ。

 これから先にもっと楽しい未来がある。

 それを自分の病気で邪魔をしたくなかった。


 だから本当のことを言わずに別れたかった。そのために浮気したのだ。

 最低だということは分かっている。

 でも、少しでも引きずらないような別れ方をしたかった。


 もし、敦志が自分と同じぐらいの歳だったら、おそらくこんなことはしなかった。

 二人で病気を乗り越えて行きたいと思ったはずだ。

 やはり、十歳近く離れていることで、どこか敦志に遠慮してしまっていた。


 敦志は何も知らない。初めは何度か連絡が来るだろうが、無視していれば次第に無くなるはずだ。

 彼の周りにはいっぱい恋人候補がいる。すぐに新しい彼女が出来て、忘れてくれるだろう。


 でも、いつか本当のことを知って欲しいとも思っている。

 五年先でも、十年先でもいい。

 敦志の横に大切な誰かがいて、そうだったんだと少しだけ思い出してくれればいい。


 背中に敦志の存在を感じながら、少しずつ離れて行く。

 こらえることが出来ずに涙が溢れてきた。


 ギュッとアルバムを抱きしめて前へ進む。