LOVE STORIES

 ここで言うあいつと言うのは亜美の浮気相手のことだ。

 亜美より二歳上の同僚だった。

 会社に入ってすぐに仕事を教えてくれたのが彼だ。

 そのため、プライベートでもよく飲みに行ったりしていたが、あの夜以外は一線を越えたことはなかった。

 なぜなら、彼には家族があったからだ。

 相手のことは敦志にも言ってあったが、このことだけは伝えていない。


「ほら、せっかく最後なんだからもっと楽しい話しようよ」

「こんな状況で楽しい話ってのもな」

「敦志君がそうしようって言ったんじゃん」

「そう言わないと来てくれなかっただろ」

「そんなことないよ」

「嘘吐く時、絶対目逸らすもん」

 癖を指摘されてドキッとした。

 確かに亜美にはそのような癖があった。

「あの時だってそうじゃん。仕事が入ったって言って、会社の飲み会だった時。あの時、俺、楽しみにしてたんだから」

 その日は二人でずっと前から約束していたデートの日だった。

 年に一回の花火大会で、二人で色々計画していたが、会社の付き合いでどうしても断れない飲み会が入ったのだ。