しかし、声をかけようにも相手が自分を憶えている保証がない。

 十五年も前に一週間遊んだだけなのだ。憶えている可能性の方が低い。

 それでも達也には隣に座る女性が明日香であることは確信している。

 あの夢に出てくる少女の面影がはっきりあった。

「あの、すいません」

 達也は思い切って明日香に声をかけた。

「はい?」

 ビニール袋から取り出したジュースを飲んでいた明日香が返事をした。

「人違いだったらすいません。もしかして下の名前、明日香じゃありません?」

 達也はこわごわと訊いた。

「そうですけど……」

 明日香は突然見知らぬ男に自分の名前を呼ばれたことを気味悪がっている。

「ほら、俺だよ、俺。達也。ちっちゃい時、遊んだの憶えてない?」

 明日香はすぐには思い出せなかった。

 しばらく記憶をたどるように考え込んでいると、どこかでその思い出にぶつかったのだろう。あっと驚いた声を出した。

「達也じゃん。京子おばさんのところに遊びに来てた」

「思い出してくれた? 久しぶりだね」

「久しぶりなんてものじゃないよ。あれ、もう十五年くらい前だよね」

「確か、俺が小二の頃だったから、そんなもんじゃないかな」

「あれ以来、来てくれなかったもんね」明日香は少し嫌みを言った。

「しょうがないだろ。俺だって毎年行けると思ってたんだから」

「まあ、おばさんが亡くなっちゃあね」

「事故だったんだろ」

「うん。あの時は本当に悲しかったな。あそこ、子供がいなかったから本当に可愛がってくれたし。毎日、学校の帰りに遊びに行ってた」

 明日香の顔が悲しそうに沈んだ。