「すいません。そこあたしの席なんですけど」

 声をかけられて達也は目を覚ました。

 一瞬、自分がどこにいるのか分からなくなったが、すぐに新幹線の中だと気付く。

 出張の帰りだった。座れないと嫌だったので、指定席を買ったのだが、運悪く通路側しか取れなかった。

 しかし、自分の席に行ってみると窓際に人はいなかった。途中で乗ってくるのかなと思い、誰か来たら席を譲るつもりだったが、仕事で疲れていたせいか、眠ってしまっていた。

「ああ、すいません」

 達也は慌てて、荷物をどかす。

 どうそ、と言い、その女を通すため一度立ちあがった。

 その時に初めてその女の顔を見た。

 驚きのあまり、固まってしまった。

「何か?」

 女が不審そうに訊いてくる。

 いえ、と答えるのが精一杯だった。

 そこにいたのは間違いなく明日香だった。

 まさか、こんなところで会うとは思わなかった。

 最近、頻繁に明日香の夢を見るのはこのためだったのか。夢を見ていなければ間違いなく、明日香だと気付かなかったはずだ。