かくして居間に落ち着いた俺と優子さんだったが。
この筆舌に尽くし難い空気を、誰か、どうにかしてくれ。
話のきっかけがない。
そもそもお互い立場が立場なだけに和気あいあいなんてできるはずがない。
いっそ、さっき逃げてった凌を捕まえて引きずりこんでおけばよかった。
あいつなら初対面の、どんな人間とだって、きっとまばたきするくらい一瞬で表面上は打ち解けられる。
こんなの俺にはハードルが高すぎて、挑戦する前から白旗を振り回したい気分だ。
優子さんも優子さんで、どうして正座してうつむいたきり黙りこんじまってるんだ。
大人なら、こう、場を和ます話術の一つや二つ身につけていて然るべきだろう。
いや、それはさすがに責任転嫁し過ぎか。
お互い気まずいのは一緒だ。
俺が優子さんのことを何一つ知らないように、優子さんも俺のことを何一つ知らない。
それなのに、よく一緒に暮らすのを許す気になったよな、この人。
何を考えてるんだろうか。
緊張しているのか何の感情も浮かべていないその顔をじっと観察していると、透けるように白い肌とか、ちょっと奥二重の目だとか、まっすぐ通った鼻筋だとか、とにかく造りの綺麗さに驚く。
顔にいろいろ塗ったり盛ったりしてごまかしているクラスメートの女子とは根本的に違う。
そして、この小汚い部屋にありながら染まらない、むしろ周囲を浄化してしまいそうなまでの清潔感。
育ちがいいんだろうな、としみじみ思った。
俺や親父とこの人じゃ、生きてる世界が違うような気がする。
やっぱり、一緒に住むなんて無理な話なんじゃないだろうか。
きっと彼女も今ここへ来て、俺を見て、しみじみとそれを実感しているはずだ。



