涼しい風が流れてくる。
駐車場から近所の子供のはしゃぐ声が聞こえる。
あまり陽の入らない薄ら暗い玄関先。
そこにいたのは、若い女性一人きりだった。
「……え?」
誰だ、この人。
オフホワイトのスプリングコートに青いシャツ、そして黒の膝丈スカート。
胸まで隠れる長さの黒髪をすんなり下ろしていて、輪郭に沿って流された長めの前髪からは涼しげな瞳が覗いている。
凛と鳴る音が聞こえそうなほどの清楚な美人だ。
あまり馴染みのない雰囲気に圧倒されていると、女性がおもむろにお辞儀をした。
「はじめまして」
細い絹のような声にうろたえながら俺も「あ、はぁ、はじめまして」と会釈する。
「……私、龍ヶ崎(りゅうがさき)彩」
「えっ」
「……彩花の娘の、優子です」
「あ、あぁ……」
焦った。
この人が彩花さんなのかと思ったじゃないか。
親父がこんなに若い人と結婚したいなんて犯罪みたいだから、そうじゃなくてよかった。
しかし、娘さんがこんなに大きかったとは。
親父の口振りだと彩花さんは親父より年下らしかったから、その子供はせいぜい小学生くらいだろうと勝手に思いこんでいたのだ。
しかし、目の前にいるこの女性は社会人、どんなに若く見積もったって大学生くらいだ。
ということは、その親の彩花さんはどう計算したって親父より年上になる。
なんてこった。
親父が熟女趣味だったなんて。
若過ぎても嫌だが、年上過ぎても、なんか嫌だ。
でも、こちらの……優子さん、だったか、滅多にお目にかかれないレベルの美人であるからして、きっと彩花さんも大層美しいのだろう。
それなら結構な年上だって不思議じゃないな。ちくしょう、親父の面食いめ。……



