ビクビクしながら教室に足を踏み入れると、俺に気づくなり早乙女那美が駆け寄ってきた。


「服織女くん、この前はごめんね。私、服織女くんがつらい思いしてるなんて全然知らなくて、誤解しちゃって……」


今にも泣きそうな顔で必死に訴えかけてくる、そんな姿も可愛いのだが。


「ごめん早乙女さん。何のことだかさっぱり……」


「え?服織女くんって、ずっと、あの……いじめられてたんだよね?」


初耳だ。

俺って、いじめられてたのか。

まあ優子と同棲していると勘違いされてからは、そういう雰囲気だったかもしれない。

だけどあれくらいじゃ、いじめとまでは言い切れないだろう。

女子から『可愛い』と言われるのだって違う。

思い当たる節がない。


「昨日、何があったのか教えてもらっていいかな」


「う、うん。えっとね……」


早乙女那美の話は、こうだ。

昨日の昼休み、臨時の校内放送があった。

内容は、この学園で起きているいじめの摘発。

今、とある男子生徒が血も涙もない人間の発信した根も葉もない下品な噂で苦しんでいる、そのせいで男子生徒は今日学校を休んでいる、と。

このままではいたいけで可愛らしい彼が不登校になってしまう、と。