午後、太陽が傾く準備に入ろうかというころ。
玄関から物凄い音が連続で聞こえてきた。
轟音の中、慌てて外の様子をうかがうと、ショッキングピンクのランドセルを背負った心愛が鬼の形相でドアをノック、ではなく、殴っているではないか。
「ちょ、落ち着け!」
いさめながらドアを開けると、初っ端から一発、ふくらはぎにローキックを食らった。
「いってぇ!」
「クズ野郎!低身長!今日優子が学校休んだのアンタのせいでしょ!?」
さすが、予想が的確だ。
「昨日元気なさそうだったのもアンタが何か言ったからでしょ!分かってるんだから!何言ったのよ、このチビ!絶対許さない!」
さらに攻撃を受けてマウントポジションを取られた。
前回よりも一層ひどい扱いをされているが、ちっとも腹は立たない。
この子がどんな人間なのか分かった今、俺は罰を受ける罪人として無抵抗に徹する覚悟を決めた。
しかし。
「いくらでも殴っていいから静かにしてくれ!優子が起きちまう!」
「分かってんのよ、それくらい!」
腹の上に勢いよく乗られ、内臓が逆流しそうになる。
むせる俺を尻目に、心愛は「お邪魔します」と行儀よく靴をそろえて上がりこんできた。
そして真っ先に俺達の部屋へ足を向けたから、俺は手を伸ばした。
今はそっとしておいてやりたい。
「やめろ、寝てるんだ……!」
ところが、心愛はふすまを少し開け、そこで立ち止まり動かなかった。
黙って優子の様子をうかがっている。
心配しているのがランドセル越しの背中からも伝わってきて、俺はそっとその場を離れることにした。



