静かにノートを閉じる。
「なんてこった……」
俺はそれを丁寧にちゃぶ台の上に置き、頭を抱えた。
新しい家族のために懸命に頑張る少女と、それをひたすら励ます親友が、そこにいた。
あのときの卵焼きにそんな思いがこめられていたなんて。
部屋に戻らずいつも居間にいたのは、俺の邪魔にならないための気遣いだったなんて。
知らなかった。
優子は、こんなにも俺を思ってくれていたんだ。
それなのに俺は自分のことしか考えていなかった。
傷つけて、冷たく当たって。
そんな扱いを受けている優子の傷ついた心を見透かしていたからこそ、あの小娘……心愛は俺に敵意を向けたんだ。
日記の心愛は、言葉さえ拙いが、普通の優しい女の子だった。
あの子にあんな態度を取らせたのも、俺だったんだ。
あのとき親父が俺を責めた理由が、今やっと分かった。
……「斗馬クンさ、あの二人とちゃんと向き合ってないでしょ」……
凌のいつかの言葉が蘇る。
年端もいかない女の子が高熱を出して倒れた姿を目の当たりにするまで気づけなかった俺は、最低の大馬鹿者だ。
自分に腹が立って、優子に申し訳なくて、少し泣いた。
そして情けない自分にカツを入れるために両頬を叩き、これから優子に、彩花さんにしなければならないことを、考え始めた。



