汗でぐしゃぐしゃになってしまった制服を着替えるため、部屋着を持って居間に来た。
畳の上に転がったままだった優子の鉛筆を拾い上げ、ちゃぶ台の上に置くと、開きっ放しのノートに書かれた数行の文が目に飛びこんできた。
(どうしよう心愛。
私、斗馬さんを怒らせてしまいました。)……
思わず目を逸らす。
なんだ、これ。
心愛って、あの小娘のことだよな。
もしかして、交換日記ってやつか?
小学生のとき、クラスの女子がやっていたのを覚えている。
優子だって小学生だから、こういうことをしていたっておかしくはないんだ。
子供らしい一面を垣間見て少し安心する。
でもそこに俺の名前があったことで首筋が冷たくなった。
一体、何が書かれているんだろう。
いけない。
人の日記を見るなんて倫理にもとる。
俺は、ただちにこのノートを閉じるべきなんだ。
そして素知らぬふりをしなければならない。
それが真っ当な行動だ。
ノートに手を伸ばす。
閉じろ。
そんなの視線を逸らしたままでも出来ることだ。
目をやる必要はない。
簡単なことじゃないか、さあ、やるんだ。……
こんなに理性が叫んだのに、結局俺はノートを手に取ってしまった。
どんな言い訳をしても許されないことは承知している。
俺は外道だ。
開き直りだと思われてもいい。
ただ俺は、優子の本音が知りたかった。



