寝ているんじゃない。

投げ出された腕の先に鉛筆が転がっている。

ちゃぶ台の上にはノートが開きっ放しになっているから、明らかに何か書いている最中にそこから崩れ落ちたのだ。


全身が総毛立つ。

俺は鞄を放り出し、夢中で駆け寄って優子の顔をのぞきこんだ。

頬が赤い。

息が忙しなくて、肩が大きく上下している。

おそるおそる髪を掻き分けて、そのなだらかな額に触れてみると、驚くほど熱くて俺は慌てて手を引っこめた。

眉間に寄せられたしわが、その苦痛を物語っている。


一体どうしたっていうんだ。

風邪?

インフルエンザ?

それとも。


……俺のせい、かもしれない。


俺があんなふうに怒鳴ったりしたから。

だから優子は。


どうしよう、どうしよう。

苦しそうな呼吸が俺を責め立てる。

おろおろしている場合じゃない。

何とかしないと。

早く、俺が何とかしてやらないと。……


そうだ、彩花さん!

思い立って俺は電話に飛びついた。

早く、早く!

薄とろいダイヤルをあくせく回して、すっかり正気を失っている俺は、自分があろうことか凌の携帯の番号を入力してしまったことに、呼び出し音が鳴り始めてから気がついた。


「違う、何やってんだ!」


慌てて受話器を置いて、彩花さんの携帯の番号を探す。

たしかこの電話が載ってる棚の一番上の引き出しに……あった!

俺は今度こそ、メモを見ながら慎重に、震える手でダイヤルを回した。

呼び出し音が、一回、二回、……