「嫌じゃなかったのは、良かったけど…この部屋に他の男入れて同じ事するなよ」
ようやく聞こえてきた央雅くんの声は、淡々としていて驚いてるのを隠そうともしていない。
私が拒まなかった事、やっぱり呆れてるのかな。
キスが嫌じゃなかったって…軽々しく言うもんじゃなかったんだな…。
男の人と二人で部屋にいれば起こりうる事を知らないわけじゃない。
知ってるからこそ、今まで誰もこの部屋に入れなかった。
そんな機会なんてなかったのもあるけど。
私にとって人間関係を広げるのは大きな賭けだし、他人の懐に飛び込むのも、他人に全てをさらけ出すのも苦手な私なのに。
きっと、央雅くんは。
当たり前だけど、私を外したに違いない。
自分のテリトリーから、私を出してしまった。
だから、こんなに低くて感情の伴わない声で…。
再び…。気持ちが落ちそうになる。
央雅くんも、私から離れてしまうんだ。
簡単に、あっさりと。
突き放す事で私との関係をリセットして。
新しい人生を歩み始める人。
私がこの世に生まれてきた事を否定するように去っていく背中。
どんどん暗い気持ちが私を覆う。
ふわふわ浮いていたような足元も、地に戻ってきたどころかもっと、落ちていくような感覚。
…気分が悪い…。

