これが、抱きしめられるっていうこと…。
いつの間にか両腕で私を強く抱き寄せている央雅くんの胸の中で、味わったことのない嬉しさと穏やかさを感じてしまう。
本当なら、自分を一番に愛してくれる両親からもらえるはずだった温かさは、私には例外で。
大人になった今、そんな幼い頃の記憶は全くない。
忘れてしまったのか、もともとそんな事私には関係のない温かさだったのかはわからないけれど。
今こうして央雅くんに抱きしめられている時間を、不思議と嬉しく愛しく感じる。
「何力抜いてるんだよ。…ほんと、隙ばっか見せてると痛い目に遭うぞ」
体を央雅くんに預けたまま逃げる事も忘れてぼんやりとしていた私に、央雅くんは冷たく言い放つ。
呆れてるようなその言い方が悲しいけれど、顎の下に手を入れられて持ち上げられた私の顔。
央雅くんの悲しげな瞳と視線が合ってしまって切なくなる。
無理矢理こんな態勢にもちこんだのは央雅君なのに、今見せる顔には悲しさばかりが見える。
「…大丈夫?顔色、悪いよ…」
「…」
「何か悩んでるの?」
「…」
「私は、何かできないかな…」
思わず出た私の言葉に無言のまま。
央雅くんは私の頬を手の甲で撫でると、口元を歪めて
「芽依ちゃんと同じ事言うんだな…」
「…え?」
「…くそっ」
一瞬のうちに。
後頭部に回された手で引き寄せられて、温かい唇が、私の唇に落ちてきた。
「…んっ…おう…が…くん…あ…」
強い力で固定された私は、央雅くんの唇から逃げられないまま、少しずつ少しずつ。
力が抜けていった…。

