「あの……、シュークリーム食べませんか?
せっかく央雅くんが持って来てくれたから、一緒に食べましょう」
気付くと、私の目の前に央雅君の顔があった。驚いた私は思わず後ずさってしまうけれど、右手首を掴まれて、それも遮られた。
今にも触れ合いそうな距離のまま、私は央雅くんから目がそらせなかった。
「…あの…」
ようやく呟いた言葉も意味を成してない。央雅くんは口角を上げてくくっと笑った。
「前にこの部屋に来た時も思ったけど、結のは隙が多すぎるよ。
さっきソファの上でも俺から逃げられなかったでしょ。押しに弱い?
その隙に俺がつけこんで、結乃を傷つけるようなことするとか疑わなかったのか?」
傷つけるって意味がわからないほど子供ではないけれど、央雅くんを疑うような気持ちを持った事はなかった。
芽依さんの弟だという事が大きな理由でもあるけれど、私の側にいる央雅くんからは不安や脅威を感じた事がないから。
小さな頃から、周りの大人達の顔色を気にしながら過ごしてきたせいか、私は本能や直感で人の感情の機微や自分に対する想いを見極められるようになっている。
「どうして?って…どうして央雅くんが私の側にいるのかわからなくて混乱はするけど、私が本気で嫌がる事はしないってわかるから。
だから、央雅くんから見れば隙だらけなのかもしれない。
……こんな答えじゃ、だめかな」
「だめだろ。結乃が嫌がる事はしないなんて、なんで言える?」
「…えー…。直感…」
相変わらず近い距離にある央雅くんの顔。
私が小さくそう呟いた途端に苦笑された。

