「夏基さんがシャッターを押してくれたんですけど、この振袖を着た芽依さんを見たかったってずっとぼやいてました。…相変わらず仲がいいですよね…。
お兄さんがこの振袖を芽依さんに用意してくれたらしいですけど、夏芽ちゃんの七五三や成人式も用意するって張り切ってました。
本当気が早いですけど…幸せそうで、いいですね」
みんなに祝ってもらった幸せな記憶がはっきりと蘇ってきて、私の口も滑らかになってしまう。味わうことのなかった家族からの愛情だけど、あの瞬間だけはまっすぐな愛情を向けられて。
今思い出すだけで心が温かくなる。
両親の離婚によって離れ離れに暮らしていた芽依さんとお兄さんだけど、両親それぞれが幸せな再婚をしたせいもあって交流は続いて、兄妹として近い距離での付き合いは続いているらしい。
芽依さんの実のお父さんが経営する会社の次期社長のお兄さん。
その会社で働いていた芽依さん。
そして、夏基さんはその会社の重要な戦力らしく、本当に仲がいい。
家族ってこんなものなんだな…と心が落ち着く理想の関係を知って、無理だと諦めているけれど、将来家庭を持つなら芽依さんのような…。
と願わずにはいられないくらいに憧れる。
だから、この写真を見る度に穏やかな気持ちと勇気をもらう。
「…いいお姉さんがいる央雅くんがうらやましいです」
思わず呟いた私の言葉に、一瞬顔を歪めたような気がしたのは見間違い…?
相変わらず写真を見ている央雅くんの表情は緩む事がなくて、どうしてこんなにこの写真にこだわるのかわからなくて困ってしまう…。
「…央雅くん…?あの」
「…あ、悪い。別に…何もないから」
「ん…」
ふっと意識が戻ってきたように不意に、慌ててそう言う央雅くんだけど、何もないことないでしょう…と、思わずにはいられないくらいに表情は暗くて、私は何も言えなかった。

