揺れない瞳

その日の晩、約束していたお店に行くと、既に芽実さんと奏さんが待っていた。

「お待たせしてすみません」

頭を下げながら挨拶をして、二人の向かい側の席についた。
私の隣の席の央雅くんは、以前何度か二人に会った事があるせいか、とりたてて緊張することもなく。
というよりも、どこかこの状況を面白がっているような、そんな軽い笑顔を見せている。

反対に、私の心臓の跳ね方は尋常ではなくて、ちゃんとショーへの出演を断れるかどうか悩んでドキドキしていた。

しっかりと言わなくちゃいけないと、そう思えば思うほど、緊張する心は私の表情を硬いものにしているはず。

「適当に、頼んじゃった。このお店、一応イタリア料理が専門らしいんだけど、色々作ってくれるから大好きなんだ。
この前、来る前に筑前煮が食べたいって電話しておいたらちゃんと作ってくれたもん。それもまた絶品で、今日もまたリクエストしちゃった」

ふふふっと笑う芽実さんの明るい声は、いつも通り軽快で、彼女の自由な生き方そのものって感じがする。

「あ、もちろんパスタも頼んであるからいっぱい食べてね」

奏さんは、そんな芽実さんを優しく見つめていて、ただただ芽実さんの事が大好きだってオーラがいっぱいだ。
結婚して何年も経っているって聞いたけれど、こんなに愛情いっぱいの瞳を奥さんに向ける旦那様っていいな。

それほどの魅力が芽実さんにあるんだろうな……。

なんて、色々と考えていると、芽実さんはかばんから何やら取り出して。

「はい、これからの日程表ね。結構タイトなスケジュールだから体調管理には気を付けてちょうだいね」

私の目の前に置かれたのは、カラー印刷された冊子。

「日程以外の詳細も書かれているから読んでみて。結乃ちゃんの作品の写真も載せてあるから。あ、でもこれ最終稿じゃないから変更もあり。
その時にはまた連絡ってことで」

話をすすめていく芽実さんの流れに逆らうこともできず、どうしようかとおろおろしながら央雅くんを見た。
助けを求めるような気持ちで見たけれど、央雅くんは肩を震わせて笑いをこらえていた。

「え?どうしたの?」

そんな央雅くんの様子を変に思ったのか、芽実さんが首を傾げながら私と央雅くんに交互に視線を投げてくる。

央雅くんは笑いをこらえつつも、そんなの意味がないくらいに身体を揺らして。

「あの、芽実さん、結乃が話があるんで、聞いてやってくれますか?」

一気にそう言うと、大きく息を吐いた。と同時に、3人の視線が私に集まった。

途端、私の体温全てが集まったみたいに、私の顔は熱くなった。