揺れない瞳

「央雅くんっ、それって違うし……」

意地悪そうに笑ってる央雅くんは、私に意味ありげな視線を投げてきた。

「あの押しの強い芽実さんのオファーを断り切れるとも思えないけどな」

これまでも、央雅くんは何度もそう言ってる。
私よりも芽実さんとのつきあいが長い央雅くんは、きっと私には断る事ができないと思っているようで。
強気な言葉で攻められると、きっと最後は頷いてしまうと、そう思ってるみたいだ。

そんな私の性格を見越して、この間の夜、ウェディングを着せられたんだけど……。
今でもその時の事を思い出すとドキドキして熱くなってしまう。

『結乃のウェディングドレス姿、俺が一番に見たかった』

なんて甘い言葉……。

そんな幸せな言葉を、央雅くんが聞かせてくれるきっかけになったあのウェディングドレスには、感謝してるけど。
やっぱり自分が着てショーに出るなんて無理。絶対に無理だ。

「頑張って断る」

そう、強い気持ちで、断ろう。

「でも、元旦からわざわざ断りに行くのか?」

心配そうな父さん。

「うん。相手は社長さんとその奥様だから、今日しか時間が取れないって言われちゃって、今から行くの」

「なら、父さんもついていってやろうか?」

「え?どうして?私と央雅くんで大丈夫だよ」

「なんでって……父親だし……」

私を心配してくれてる父さんの言葉だったけど、そんな気遣いに慣れてない私は、思わず拒否するような言葉。

はっと気づいた時には、悲しそうに下がった父さんの目にじっと見つめられていて。

「えっと……ありがとう。でも、大丈夫だから」

ははは、と小さく笑って見せた。
父さんという、絶対的な味方。
まだその存在に慣れない。

大切にされること、心配されること。

当たり前のように受け止められるくらい、近い関係になりたい。