揺れない瞳


夕飯も一緒に食べたいと言う父さんと愛子さんは、何度も私と央雅くんを引き止めてくれた。
ようやく一緒に過ごせたお正月の楽しい時間を、少しでも引き延ばしたいという気持ちがよくわかって、気持ちはぐらついた。

私だって、多少の緊張はあるにしても、父さんと過ごした元旦は夢のようなもの。物心ついて以来、家族と過ごしたお正月なんて記憶になかった私には、憧れていた当たり前の日常。

そんな幸せな時間を、もう少し長く味わいたいと思う父さんの気持ちは理解できるし、私だって同じ。

『ごめんなさい。結婚式の時に会えるのを楽しみにしてる』

そう言って、帰る事を告げた。

悲しそうな父さんの顔に、何故か喜びを感じる私って意地悪だなと心の中で苦笑した。

玄関で、別れを告げていると、愛子さんが

「何か用事でもあるの?」

名残惜しそうにそう聞いてきた。

「用事っていうか……断りに行くっていうか……」

「は?」

どう答えればいいのかと、ちょっと間があいた。

「えっと、去年最終審査に残ったウェディングドレスをショーで使いたいっていう話があるんですけど、それをお断りに、行くんです」

「ああ、私も見たよ、真珠が散らばっていて綺麗だった。結構あっさりとしたデザインだったから、私みたいな三十路女でも着られそうだなって思ったもん。え?あのドレスがショーに出されるの?」

かなり興味をひいたような愛子さんの声に、ちょっと押され気味になる。

「オファーが来たんですけど、断ろうかと……」

だんだん小さくなる声の私に、同意できないような愛子さんの表情。

「もったいないよ、あんなに綺麗なドレス、ショーで見せびらかせばいいのに」

「ああ、そんなわけには……」

愛子さんの勢いにたじろぐ私の隣の央雅くんは、くすりと笑うと

「そのオファーは、ドレスだけじゃなくて、結乃にもショーに出て欲しいって内容なんですよね。だから、結乃は嫌がってるんです。
せっかくなのに、ね」