揺れない瞳

「愛子さんが“嫌な人”なら、そのうちに別れる事もあるだろうし、そうなったら、父さんの一番近くにいるのは娘の私だって、そんなずるい事考えてました。それに、私が寂しくて仕方なかった時に掴んだ父さんの幸せなんて、崩れてしまえばいいのに……とも考えてたから。

……私、本当に“嫌な人”なんです」

「結乃ちゃん……」

「できれば、父さんとも仲良くしたいし私を一番に考えて欲しいって、そう思ってたから、愛子さんに嫉妬してました。
だから、愛子さんが嫌な人なら私の気持ちも救われるのにって。

そう思ってました」

どんなに父さんを求めていたか、どんなに母さんと仲良くして欲しかったか。
小さな頃の私の張り裂けそうに悲しい感情を振り返る度に湧き上がる感情。

その感情をごまかすように、どんどん私は嫌な人になっていった。

「ごめんなさい。愛子さんは、こんなにいい人なのに」

実際に会った愛子さんは、単純に父さんを愛していて、一生懸命私との距離を縮めようと努力してくれて。

そして何より、父さんと出会ってから10年間、父さんのためだけに過ごしてきたと聞いてしまった後では。

完敗。

そう思わずにはいられなかった。