揺れない瞳

言った私も、言われた愛子さんも驚いて顔を見合わせた。

「あ……、ごめんなさい、私、変な事を言っちゃって」

あたふたと謝るけれど、それすら支離滅裂で、自分でも何が言いたいんだろうとさらに焦ってしまう。

“嫌な人”なんて、絶対に気を悪くしたはず。

「本当に、ごめんなさい」

何度も頭を下げる私に、愛子さんは小さくくすりと笑った。

「いいよ。私本当は“嫌な人”だもん。結乃ちゃんにはそれがばれたのかなあ」

諦めたように息を吐いて、愛子さんは肩をすくめた。

「結乃ちゃんに圭をとられるのが怖くて空元気だし、圭が結乃ちゃんと暮らしたがってるのもわかってるのに諦めさせるように話進めちゃってるし。
央雅くんに結乃ちゃんを任せるのが一番なんだよ、みたいに平気で言ってるし。……本当、私って嫌な女だよね。……ごめんね」

「いえ、そんな事……」

「結乃ちゃんにしてみれば、私なんて、お父さんを奪った憎い女だよね。
どんなに複雑な親子関係を送ってきたって父親であることには変わりないのに、お父さんと仲良くしたい気持ち強いはずなのに、私が邪魔してるよね」

ぐっと唇をかみしめて、申し訳なさそうに私を見つめる愛子さんは、さっきまでみんなで明るく話していた時の彼女とは別人のようだ。

「本当、ごめんなさい」

「いいんです。嫌な人だったらいいのにって思ってたけど、実際嫌な人じゃなかったし。今もっと愛子さんの事好きになってます」

「え?」

「本当です。……そんな嫌な女の愛子さんも、好きですよ」

普段なら表に出せない自分の気持ち。
どこか遠慮がちな自分だけど、必死で謝ってくれる愛子さんにはさらっと言う事ができた。

それだけで、愛子さんは私には特別な人だとわかる。