揺れない瞳

料理好きだという愛子さん手作りのおせち料理やお雑煮をいただきながら、何となく漂う気まずさ、それでいてその雰囲気に心地よさも感じていた。

気まずさすら味わったことのない私と父さんの関係は、普通の親子なら嫌がる感情すら新鮮に思えるんだと思う。
それほど細い絆しか築けていない関係に、切ない想いが溢れるけれど、その現実に今気づけた事を幸せだとも思える。

広い家には部屋がいくつあるのかわからないけれど、通された和室に正座して並ぶ私と央雅くん。少し緊張気味。
向かいに並んでいる父さんと愛子さんに勧められるまま箸を動かしていた。

「で?将来は医者になるのか?」

どう聞いても決して機嫌がいいとは言えない父さんの声に、私の手元も静止して、隣の央雅くんをちらりとみた。

「はい。きっと開業医なんて無理だと思うんですけど、両親のように勤務医として頑張ろうと思っています」

父さんの様子に動じる事無く笑顔でそう答えてくれる央雅くんにほっとする。
央雅くんの事を、気に入っていないってあからさまな態度で接している父さんの子供っぽさに、愛子さんも苦笑いしている。

私と目が合うと、

『ばかみたいね』

と口元が動いた。

まだ30歳だという愛子さんが、どうして10歳も年齢差のある父さんと結婚したのかよくわからない。
父さん自身、見た目はまずまずで、30代前半だと言ってもどうにか通用しそうだけど、それ以上に愛子さんは若く見えるしとても可愛い人。

きっと、男性からの人気はかなりのはず。
なのに、どうしてこんなバツイチで、成人した娘までいるおじさんと結婚なんてしようと思ったんだろ。