揺れない瞳

「愛子の事は気にしなくていいんだぞ。どちらかというと、愛子の方が結乃に会いたがってるんだ。……いや、父さんだって結乃に会いたいんだぞ。
この前会ってからずっと結乃の事考えてるんだ。
だから、お正月は家族で一緒に過ごそう」

家族でと言われても、実感がわかないんだけど……。
まくし立てるように私を説得する父さんは、かなり私とお正月を過ごしたいようで、それをこれ以上拒むのってどうなのか、と揺れる。

「なあ結乃……」

黙り込む私を確認するかのように静かな声が聞こえた。

「父さんは、奈々子と18歳で結婚してるんだ。結局はうまくいかなくて結乃に悲しい思いを味あわせてしまって申し訳なかったと思う」

「え?あ……うん」

「父さんは、結乃がいつ嫁にいくのか不安でたまらないんだ。
自業自得だとはいえ、自分の娘なのにずっと離れて暮らしていて、一緒に生活する幸せを知らないまま他の男にかっさらわれるのが、不安で悔しいんだ。

今の結乃も央雅くんもとっくに父さんが奈々子と結婚した年齢は超えていて、二人とも愛し合ってるんだろ。

明日にでもそんな悔しい日がくるかもしれないって考えると、本当、どうしようもなくつらいんだ。
もちろん反対するつもりも、そんな権利もないってっわかってるから、余計にな……。

だから、もしかしたら結乃と親子として過ごせる最後のお正月になるかもしれないだろ?

……一緒におせち食べてくれないか?」

不安げに変わっていく私の表情から何かを察してくれたのか、央雅くんが私の手をぎゅっと握りしめてくれた。
この手に、かっさらわれるのかな。いつか。

ぼんやりとそんな事を考えながら、明日、父さんとおせちを食べてみるのもいいかと、思い始めていた。