揺れない瞳

「この前言ってたけど、今彼の家にいるのか?」

「……うん。央雅くんの家で年越し蕎麦を食べてるところなんだ」

「……」

私の言葉に黙り込んだ父さん。

「父さん?どうしたの?」

私の問いに対して、聞こえてきたのは大きなため息だった。

「うちに来ればいいのに」

「……」

その言葉を聞いて、今度は私が黙り込んでしまった。
ここ数日、何度も父さんは『一緒に年越しをしよう』と言ってきた。
これまで一緒に年越しをしたことはないし、というか、大晦日に限らず一緒に暮らした記憶がないせいか親子そろって過ごす夜っていうのがぴんとこない。

それに、父さんは既に再婚していて、愛子さんという奥さんもいるんだから、私がお邪魔するっていうのは本当にお邪魔っていうことで。
そりゃ、遠慮するに決まってる。

「父さん、結乃と年末年始を一緒に過ごしたかったんだけど。
大晦日は彼に譲ったから、せめて明日はうちに来て一緒におせち食べないか?
今日、愛子が頑張って作ってたんだ。もちろん結乃の分もたっぷりあるぞ。
お雑煮はおすましで丸餅なんだけど、それでいいか?
あ、お年玉だって用意してあるしお神酒も一緒に飲もう。
な、明日はうちで新年を祝おう。
……あ、もしも彼もいっしょに来たいっていうなら……央雅くんも来ていいけど」

来ていいって言ってるのに、その声音からは央雅くんが一緒に行くのを嫌がっているのが簡単にわかる。

それがなんだかおかしくて、苦笑いしてしまう。
央雅くんは、そんな私を見ながら肩をすくめた。

「父さん、私に気を遣わなくてもいいよ。愛子さんだって父さんと二人きりでお正月はのんびりしたいだろうし。
結婚式にはちゃんと行くから、その時にでもお年玉ちょうだい」

お年玉、もらっていいのかどうか、ちょっと複雑だけど。

「だから、お正月は央雅くんの家で過ごすね」

そう言った途端、央雅くんが嬉しそうに笑ってくれた。