揺れない瞳

思わずそう答えた私だけど、央雅くんの言葉の意味がわかってくると、それ以上何も言えなくなる。
来年もって、それって……。

「年越しそばだけじゃなくて、色々とお願いね」

にっこり笑うお母さんの言葉にも驚くばかり。

「えっと、それは、私……」

慌てる私の横で嬉しそうにしている央雅くんは、何も言わずににんまりと笑ってるだけ。

「……なんならこの家に越してきてもいいからね」

お母さんの言葉がとどめとなって、私の混乱はマックス。
言葉もなく戸惑って、ただただ央雅くんを見つめて。

……家族として、認めてもらえてるのかな。
私、央雅くんのご両親に受け入れてもらえてるのかな。
私がこの場所にいる事、央雅くんは喜んでいるのかな。

次々と浮かんでくる疑問が私の表情に出ているのか、

「……そうだよ」

ただそう答えてくれる央雅くん。

「結乃が望むなら、いつでもここに越しておいで」

ご両親の前だというのに、央雅くんは照れる事もなくそんな甘い言葉をかけてくれて、にやりと笑った。

「私……」

一体どう答えていいのかわからないままに呟いた時、携帯の着信音が響いた。私が好きなクラシック音楽の着信音は、それが私の携帯からだとすぐわかる。

慌ててリビングのテーブルの上の携帯を取ると

「あ、父さん……」

以前よりよくかかってくる父さんからの電話。
今、央雅くんの家族と過ごしていた幸せな時間が心にたっぷりと残っているせいか、普段よりも優しい声で出る事ができた。

「もしもし……」

テレビから聞こえる除夜の鐘の音が、去年よりも心に響いてくるのは、気のせいなのかな……。