揺れない瞳


私の言葉がきっかけで険悪になった雰囲気も、いつの間にか収まって、央雅くんもお蕎麦の残りを食べ終わった。

施設にいた頃は、大勢の子供達とスタッフさん達と一緒にお蕎麦を食べていた。あらゆる年齢の子がいて落ち着かない年越しで、私は小さな子の面倒をみながらばたばたとしながらの大晦日だった。

テレビから聞こえてくる除夜の鐘を聞きながら、洗濯物をたたんでたり、小さな子を寝かしつけたり。
普段と変わらない夜を過ごしていた。

だから、こうして家族揃ってお蕎麦を食べてるなんて、現実とは思えない。

まるで家族の一員に加えてもらったみたいでくすぐったい。

そして、気持ちがふわふわと温かくなる。
央雅くんと知り合って付き合うようになって、幸せに感じる事は多いけれど。

二人きりでいる時だけがそう感じる瞬間じゃないって気付く。

自分が好きだと思える人を支えて、大切にしてくれる人と同じ空間にいる事は、それだけで自分も幸せだと感じられる。

今この瞬間、央雅くんを大切に思っている人の側にいると、私の事も大切に思われているように感じてくるから不思議だ。

そっと隣を見ると、お茶を飲みながら私を見ている央雅くんと目が合った。

「母さんが作るよりうまかった」

小さな声だけど、私にはちゃんと届いて、その瞬間に顔が赤くなった気がする。

「あら、私だってかまぼこ切ったんだからね」

央雅くんのお母さんの高い声が響くと

「……小学生かよ」

呆れた央雅くんの声。途端にしゅんと落ち込んだ様子のお母さん。

「ま、来年からもずっと結乃が作ってくれるから、母さんは引退。
あ、ねぎくらいは刻んでいいから」

くすくすと笑うお父さんをひと睨みしたお母さんだけど、すがるような目を私に向けて

「頼むわね」

「あ……はい……え?」