今日父から持たされたのは、お重に詰められたごちそうだけじゃなかった。
父は、今央雅くんが手にしている雑誌も私にくれた。

『結にとっては悲しい記事かもしれないけれど、ここに奈々子の思いが書かれてるから、読んで欲しい』

単なる美術関係の雑誌じゃないとわかるそれは、光沢のある表紙が色鮮やかなもの。初めて手にするその類のものは、ずっしりと重くて。
父さんの気持ちまでが加えられたような、特別なものに思えた。

「へえ、結構色々載ってるんだな」

何気なくページをめくっていく央雅くんは、楽しげに見入っている。
その雑誌を貰った時の父の真面目な瞳と言葉が気になった私は、父と別れた後、目に入ったファミレスで既に読んでいる。
そして、父が私に読ませたかった記事を、何度となく読んで、そして。

小さな頃から自然と受け止めていた事を、改めて納得した。
母がこの雑誌の中でのインタビューで語っている内容によって、私の気持ちが楽になったんだ。

「へえ、結構好みの絵が載ってるんだな。これなんて俺の部屋に欲しい……
は?300万?ふざけてるのか?誰が買えるんだよ」

雑誌に掲載されている作品に向かってぶつぶつ文句を言う央雅くんを見ながら、思わずくすっと笑ってしまう。

「だよね、私もどうしてそんなに高いんだろうってびっくりしたよ」

「車買えるよな。これって、まともな値段なのか?
……うわっこっちの絵は500万。……家の頭金になるじゃないかよ」

「ふふふっ。将来央雅くんが一人前のお医者さんになったら買えるかもよ」

「あー、無理無理。開業医なんて無理だろうし、父さんや母さんみたいに勤務医で終わると思うから、こんな絵に手を出せるほどは稼げないと思う。
……まあ、家族をしっかりと食わせるくらいは十分に働くから安心してて」

雑誌から私に移された央雅くんの視線は思いがけず甘くて、瞬間私の鼓動がどきどきと大きく打つ。

そんな整った顔で、そんな優しい言葉、ずるいよ。