揺れない瞳

「父さんが、持たせてくれたの。……おいしいって私が言ったらテイクアウトもできるよって。いらないって言ったのに、こんなにいっぱい」

キッチンのテーブルに広げられた沢山の料理は、結乃の父親が用意してくれたらしい。
二人で食事をしたお店の料理らしいけれど、見るからにおいしそうな沢山の料理が三段のお重に詰められていた。

色鮮やかな和食は、結乃の表情を明るくするには十分で、誇らしげに俺に見せているその様子は俺も明るい気持ちにさせてくれる。

「一緒に食べよう。……お茶、いれるね」

「うまそうだな」

「うん。父さんと愛子さん……今の父さんの奥さんがよく行くお店の料理。
おいしかった」

照れたように笑って、結乃はお茶の用意をしたり、取り皿やお箸を並べてくれる。
キッチンのどこに何があるのかを、芽依ちゃんから教わっていたせいか、少し戸惑いながらも難なく動いている結乃を見ていると気持ちが落ち着いてくる。

「央雅くん、温かい緑茶が好きなんでしょ?」

「あ?ああ、そうだよ。夏でも温かいお茶を飲んでるかな」

「ふふふ。私と一緒だね。芽依さんに教えてもらった時、嬉しかったんだ」

ポットから急須にお茶を注いでいる結乃は、そうしている事自体、本当に楽しそうにしていて、この家に何度も来ているような錯覚さえ覚える。

さっきまで俺の部屋で泣いていた結乃の気持ちが、どこまで浮上しているのかはわからないけれど、こうして俺の側でいつも笑っていて欲しいと、思う。

遠慮も気遣いもなく、結乃が感じる感情全てを俺に見せて欲しいと、思う。

家族という一番近い存在を持てないまま今に至った結乃の人生が、これまで悲しいもので満ちていた事に憤りは感じるけれど、今こうして笑っている結乃を近くで見る事ができた運命には感謝したい。

その感謝の気持ちを大切に、結乃を守ってやりたい。

「やっぱり、一緒に暮らさないか?」

俺の口から自然と出た言葉に、湯呑を俺の目の前に置いた結乃の手が震えた。