揺れない瞳

「あ ー、それはイヤかも」

「イヤ?」

「ん。小さな頃の私は今以上に可愛くない子供だったから。きっと央雅君の目に留まる事もなかったと思う……」

俺の鎖骨あたりに顔を埋めて囁く声には、少しの笑いも感じられる。
顔は見えないけれど、結乃の気持ちにはそれほどの闇はないように聞こえる。

「私、あまり笑わない子だったの。すっごくおとなしくて人見知りで。
他人からは扱いづらい子供だって思われてた」

「うん。なんとなく予想できる」

「……やっぱり」

「コンパで初めて会った時にも、気安く話しかけにくい女の子だなって思ったし、俯いてるばかりでおとなしそうに見えたな」

くすくす笑う俺の言葉に、結乃もつられてふふっと笑う。
そして、ソファに腰掛けている結乃を抱きしめている腕に力をこめて、ぐっと引き寄せると。

「ひゃっ」

慌てた声の結乃が、俺の膝の上に落ちてくる。
不安定な状態の結乃の体を、俺の膝にしっかりと落ち着かせると、俺の首筋に触れている結乃の顔をゆっくりと引きはがした。

「扱いづらいのは、今も変わらないな」

「……そっか……だよね」

俺の言葉にショックを受けた結乃が、気落ちした様子で視線を落とした。