揺れない瞳

「指輪……」

結乃は、ケースの上に両手を広げた。
ぼんやりとしているようにも、真剣に何かを考えているようにも見える横顔。
装飾品を身に着けていない結乃。指にも、もちろん指輪は嵌められていない。
何も飾られていない指に、俺の選んだ指輪をはめたい。

「この前来た時に、内緒で買って驚かそうかとも思ったんだけど、指のサイズがはっきりとわからなかったから、今日連れてきたんだ。
結乃の趣味もあるから、一緒に選んだ方がいいし」

そっと、俺の手で、結乃の左手を包んだ。
瞬間びくっとした結乃は、泣きそうな顔を俺に向けるとゆっくりと首を横に振った。

「指輪……もったいないよ。私、別にいらないよ……すごく高いよ……」

まとまらない言葉を呟くと、唇をかみしめてる。

「もったいなくないさ。俺が結乃に指輪をはめてほしいんだ。
正直、いつも俺の側にいて欲しいけど、そういうわけにもいかないから男よけの意味も込めて、はめて欲しい」

「男よけって、そんなの必要ないよ……」

「必要だよ。結乃を欲しいと思う男は結構いる。俺のいない時にかっさらわれないように、指輪はめておいて」

情けない言葉を言ってるよな気もするけれど、結乃を目の前にするとプライドも何もなくなってしまう。
結乃を俺のものにするためなら、なんでもできそうな気がする。

「私……、大丈夫だよ。央雅くんしか好きじゃないから……」

恥ずかしいのか、俯いたその顔は真っ赤だ。……本当に、かわいい。

「そうじゃなきゃ困るけど、とにかく、指輪一つで俺は安心なんだ。
俺が少しでも楽に毎日を過ごせるように、指輪一緒に選ぼう……な」

重ねた手を優しく包むと、結乃は小さく息を吐いて、微かに頷いた。

「……うん。……嬉しい、本当は……」

そんな言葉。どれだけ俺を喜ばせるんだ。
こんな場所じゃなきゃ、今すぐ抱きしめたくなるけれど、そっと天井を見上げて気持ちをそらした。