揺れない瞳

「あ……どうして、その事を知ってるの?それに、私、ショーに出るなんて一言も言ってないんだけど……」

「んー。奏さんと芽実さんに聞いたんだ。会ってるよね?」

俺が出した名前に反応した結乃は、訳が分からないとでもいうように、目をぱちぱちとさせる。
小さな顔の中に、綺麗に配置されたその瞳が可愛くて、俺の気持ちも固まってしまうけれど、まずは結乃の疑問に答えないといけないな。

「奏さんの弟の奥さんの彩香ちゃんは、俺と芽依ちゃんの幼馴染なんだ。
今年の初め頃、俺がバイトしてる店に偶然彩香ちゃんが来て、何年振りかで再会したんだ。彩香ちゃんの旦那さんは建築士なんだけど、実家は『sweet sweet』を展開している会社を経営してるんだ。
今はお兄さんの奏さんと芽実さんが後継者として頑張ってるらしい」

「……」

そうだよな、こんな説明されても、すぐには理解できないよな。
俺だって、バイト先に彩香ちゃんが昴さんと来た時には驚いたし。
何年かぶりで会った彩香ちゃんと、当時はまだ恋人だった昴さんはその後も何度か店に来てくれて、少しずつ距離を詰めながら親しくなっていった。

最初は俺に対して警戒心を隠そうともしなかった昴さんも、俺と彩香ちゃんが単なる幼馴染だと納得してからは、兄貴のように俺を可愛がってくれた。
その二人が結婚したのは、俺と彩香ちゃんが再会してからしばらくたってからで、俺も披露宴に出席させてもらった。

そのお祝いの席で紹介されたのが、昴さんのお兄さん夫婦。
次期後継者としての教育を、幼い頃から受けていた奏さんには、大きな会社のトップだというオーラが輝いていて、男の俺が見てもほれぼれするくらいのいい男だった。

その傍らにいる芽実さんを愛しげに見つめる瞳がなければ、本当に冷たい男にしか見えなかったけれど。

そして、奥さんである芽実さんは、いい意味でも悪い意味でも奏さんとは全く雰囲気が違う……やけに明るい、弾けた女性だった。