揺れない瞳


ウェディングドレス姿の結乃を目の前にすると、キス以上に進みたい感情を抑える事は難しい。
お互いの気持ちが通じ合ったとはいっても、結乃が抱えている不安や、俺が芽依ちゃんに持つ感情に対して、結乃の心がまっさらな状態になったわけじゃない。

結乃への愛情を自然に認めて、芽依ちゃんへの重苦しい気持ちとけりをつけた俺の気持ちの流れは、俺の中では当たり前のものとして受け止められる。
けれど結乃にしてみれば、俺の気持ちが突然自分に向けられた戸惑いを、受け止められなくても仕方がない。
口下手な結乃が一生懸命に紡いでくれた思いを、すぐには受け止めずに聞き流した曖昧な俺を、あっさりと信じ切れるとも思えない。

俺に対する不安定な気持ち以上に、俺を好きだという結乃の気持ちだけが、俺たちの関係を前向きなものにする。

俺の中にある結乃への愛情全てを注いで、本当に結乃を大切う気持ち、愛する気持ちが本心だと、信じてもらえる努力をしなければならない。

そして、結乃が心から安心して、俺に全てを預けてくれる時に、結乃を抱きたい。
だから、今は、この腕の中にある温かさだけで、我慢しよう……。

俺は、気持ちを切り替えるように、大きく息を吐いた。
結乃をこれ以上求めないように、ほんの少し結乃の体を俺から離して、顔を覗き込んだ。

「このドレスを着た結乃を、初めて見るのが俺で良かった。
ショーに出るなら、何人もの男も見るから、ちょっとイラついてたんだ」

結乃への熱い思いを隠すように軽くそう言った俺に、大きく目を見開いた結乃は

「ショーって……?」

「ん?『sweet sweet』のショーに出るって、聞いたけど?」