揺れない瞳


俺の気持ちが結乃に染み入るようにと、想いを込めて抱きしめていると、そっと俺の背中が温かくなるのを感じた。

まるで、俺から拒まれる事を恐れるようにゆっくりと回された結乃の両手が、俺に安心感を与えてくれる。
微かに触れるだけの結乃の手からは、彼女が精いっぱいの勇気でそうしたとわかる震えさえ感じられる。

「私が央雅くんを好きな気持ちと、同じ『好き』なのかな」

俺の胸に向かって呟く結乃の声。何かを求めるように、続く呟きは切なくて、愛しい。

「『大切』とか『愛しい』とか、その言葉も嬉しいけど、私の事、ちゃんと『好き』ですか?彼女に、してもらえるんですか?」

時々途切れる言葉に、結乃の緊張が伝わる。言い終わった瞬間、俺のシャツをぎゅっと掴むと、結乃はそっと顔を上げた。

俺の腕の中にいる結乃の瞳は濡れている。いつから涙をためていたんだろうと、俺の心も痛くなる。
きっと、自分の想いを伝える事に慣れていない結乃にとって、今こうして問いかける言葉全て。
泣きたくなるくらいに大きな決心が必要だったと思う。

俺の事が好きだと、最初に言ってくれた日からずっと思いつめて、悩んでいたに違いない。
そして、俺の曖昧な態度と優しさに振り回されていたはずなのに、それでも俺を諦めずにいてくれた結乃。

今再び、『彼女』になれるのかと言わせてしまった。